『───魔王様。』
[この出発に少し先立って、魔王の元にはメッセージが届けられている。黒い翼に乗せたそれは、受け取られれば羽根舞う間に魔の声を、かの絶対者へと届けるだろう。
ふわり、と。恭しく礼をすると同じ程の間を置いて声が響く。]
『件の王族、ありがたく頂戴いたしました。』
『じきに雑兵どもを進軍させますが、───我はモーザックへ。』
『良い素材を見つけましたので。またお目にかけましょう。』
[お楽しみに、と。自由気ままに言い放ち、いつぞやグラスを重ね笑ったと同じ響きを残して、声は消え失せる。メッセージが届けられるのは、魔王が”趣味”より戻る後のこと、恐らくは魔王の楽しみを邪魔しない配慮だろうと思われた。]