― 春日大社 ―
[常ならば此処で、揶揄の一つでも飛ばすところで在るが、
ぼんやりと視点も虚ろな彼女に、息を詰まらせ咳払いを一つ二つ。
気を取り直すように案内を片手に、口を開き。>>91]
春日大社は平城京の主語の為に創建された御社だ。
[説明口調で切り出すと、朱塗りの美しい建造物を眺め、
大杉を左手に見やりながら短い石段を登っていく。]
流石にそれは知っているか。……本殿に祭られている四祭神の内、第一殿の武甕槌命と二殿の経津主神は剣の神だと言われている。但し、剣の神と云っても金行を司るだけで鍛冶の神ではないぞ。
この神等は伊弉諾尊が火神の斃した際に、散った鮮血より生じたとされているので、刀工よりは武神だそうだ。
―――…これで鍛冶の神なら俺も加護を得られるんだろうが。
[一頻り解説を終えると、案内を畳みながら、
御利益の程は相変わらず不明だ。と結び終える。
南門より立派な中門を越えれば本殿はもう直ぐそこだ。
鳥が翼を広げるように伸びる御廊を渡り、ついでに拝観料を清算。]