―回想・約十年前の冬A―
[店へ倒れていた、凡そ同い年くらいだと思われる少女を連れ帰る。
道中、「誰にも見られないで」だとか「女の子なのだからもっと割れ物を扱うように運びなさい」だとか、やけに我儘な女性であったが、特に何か思うこともなく、律儀にも、機械的にも、その全てに応えながら運びこんだのだった。]
ん、着いたよ。
じっとしてて。今救急箱を持ってくるから。
[そう告げて、少女を横たえる。その体は冬という季節に侵されたように冷たくなっていて、助けてと望まれた以上は、手当をした後に暖かいスープでも持ってきてやろうと考える。]
――ああ、救急箱はいらないわよ。怪我しているわけではないのだから。それよりも何か食べるものを頂戴。そうね……暖かいスープと、あとは美味しいパンでもあれば僥倖ね。
[そんなことを言ってくる。どうやら手間が半分に減ったようだった。怪我していないのに血まみれになっていた理由は別に望まれていないために聞くことはなく、言われた通りにスープとパンを、相手の望みを読み取って用意する。読み取った相手の注文はやけに多かったが、その全てに応えてやった。]