[ 背後から呼ばれた気がする──アラン、と。それは、執政を名乗る男が10年前に与えた名だ。振り返る気にもならない。と、風を切る音がして、左腕に鋭い痛みが走る。矢を射掛けられたのだ。血が滲んだが、馬の足を止めることはしなかった。ただ、道をそれて森の木を盾として進む。森の奥へと誘う力の方が、呼ぶ声よりよほど強かった。あの男は追いかけて来ない。この神域に阻まれたのだろうと思う。]