― 回想・決起前/州都 ―
[義父が退役後に開設していた診療所は彼の死後閉ざされて、表門を通る人間は今やエドルファスと細々の配達人くらいのものだったが、その日は珍しいことに診療所兼自宅の奥の間に客人を招き入れていた。
“伝書屋”として“彼”が訪れるときは、決まって玄関先での遣り取りで終わる。カークのことだ、ぬかりなく恙無く任を遂行していることとは思うが、下手に知己であることを匂わせて、彼の仕事に万一支障が出ても拙いと、配達人と依頼人、それ以上でもそれ以下でもない位置を保つよう努めていたのだ。
けれどこの日ばかりは、返信は即時に行うからと引き止めた。
燃料を得て赤々と燃える暖炉のある応接室に待たせ、簡単ながら彼へ茶を淹れて、扉を開け放ったままの続き間でペンを走らせる。]