[――次第に、息の弱まっていく子供の姿に我に返った母は、僅かな隙をついて子を抱えて脱走し、そのまま、川に身を投げた。
命からがら逃げ出し、どうにか川下に流れ着いたものの、気力だけで飢えと疲労を凌ぐにも限界がある。
草木の根をかじり、虫を食み、カビの生えたパンや腐りかけた肉の施しを受けて、誇りと身体を売って僅かな食事を得たこともあったが、烙印を見られれば穢れが伝染ると水をかけられ鞭や棒で打たれた。
逃亡の中で宗教に縋るようになったのも、当然と言えば当然だろう。現の世に救いなどないのだから、求めるのは死後の幸福だ]