[――元・海軍少将の訃報が、ニュースや新聞を賑わわせた。
半世紀以上前の、対クロトフ戦争における大事件。戦後も多くの小説家や脚本家に題材を提供してきたヴィスマルク事件。
そのたった二人の生き残り。
その片割れが、なんと竣工したばかりの二代目ヴィスマルクの艦上で死亡したのだ。
それも出航式典の一部としてヴィスマルク事件のあった海域に到着し、献花を終えた直後に――である。
無論、事件はマスコミの好餌となった。
最期まで黙して語らなかった男の代わりに、老齢の妻をはじめとする家族の元へ、報道の自由を錦の御旗に掲げるハゲタカたちが押し寄せた。
それらの報道陣の前に、老妻は数冊のノートを差し出した。
それは、半世紀以上前の事件における一人の死者へ宛てられた、半世紀以上に渡って書き綴られた日記だった。
――あのヴィスマルク事件の真相が、ローゼス海軍の情報公開を待たずして明らかになったのは、リエヴル・クレマンソー少将のノートによる]