[すぐに我を取り戻した男は、シモンが庇った子供ともどもなるべく安全なところに運びだす。
シモンが身を呈して庇った子供だ、戦乱の中に置いて行く訳にはいかなかった。
応急手当を施したがこんなところでは碌な手当てが出来ないのは自明の理。
『いいか、後で迎えに来てやるから生きたければ絶対に声を出すな。
泣き言も我慢しろ。』
意識があるかもわからない2人に向けて、男は言い放つ。
そうする事で絶対に生きて帰れると自分にも言い聞かせるように。
それからすぐに男はそこから離れて敵兵を撃ち続けた。
これが終われば早く帰れると信じて、人を殺し続けた。
銃が壊れ、弾がなくなれば死体から奪い取る。
少しでもシモンから危機を遠ざけようとした奮闘も虚しく、男も爆発に巻き込まれる事になり、一方的に取り付けた約束は果たすことは出来なかった。
重症だった男は長く病院での療養を余儀なくされ、故郷に戻ったのはシモンよりもずっと後のこと。
シモンは助かった事は聞いていたが、あの時の子供がどうなったかまでは男は知らない*]