>>60[兎が動いた。思わずビクリと身体が震え、身構えそうになるのを必死に堪える。兎は跳躍せずに、黒い火花をまとわり付かせて床をゆっくりと歩いてくる。男の額にふつふつと湧いた汗がこめかみを伝い、流れて落ちる。目尻に少し入って、酷く沁みた。兎の紅い瞳がじっとこちらに向けられて離れない。兎もまた警戒している。だが、兎は躊躇しつつも床の血溜まりに口をつけた。>>61魔獣の中のツェーザルの意志が、呼びかけを聞いて応えてくれた、と男は感じた。]