[近づいてくる歩み>>79にも、反応しようとはしない。
ただ、草の香と微かなさざめきを感じた。
何処か懐かしいような、不思議な心地がする。
冷たい床の上から、温かな膝の上へと移される。
狐は微睡の中、訥々と語られる声を聴いていた。
優しく撫でる指先に、委ねるように僅か顔を寄せる。
何かを伝えるように尻尾は時折ふわりと揺れて、
けれどやはり、瞳は閉じたまま。
―――やがて。
欠けた耳が修復し、眼の傷が塞がった頃。
乾いた笑いを浮かべる少年>>80の傍らに、灯る青い焔。
ゆらりゆらりと、慰めるように宙を舞う。
狐はゆっくりと身を起こし、ぺろりと相手の頬を舐めた。
暫し葛藤するように、そのまま尾を揺らしていたが。
遂には彼の首元へ、牙を立てようとするだろう*]