[駆けてくる彼を、身構えもせず待つ。視線だけは鋭く相手の動きを、切っ先を追っていた。その視線が、途中でわずかに酷薄なものに変わる。刃が肉を食む寸前、僅かに重心をずらして身体の位置を変えた。衝撃と共に血が飛沫き、濡れた切っ先が背中側へ抜ける。だが肉を断とうとも深手には至らないラインは見極めていた。幾度も死線を潜った経験で、体得した感覚だ。内蔵に至らない傷など、傷のうちにも入らない。]