[右腕の布を切り裂いて、それなりに深い傷が覗いている。
不意を突かれてこれだけの傷で済んだのは、宙に浮かぶ黒の糸――ではなく、先程切られた己の髪だ。
地面に散らばったそれは宙を舞って、寸でのところで軌道を変えた。
今はその刃に巻きついたまま、彼の元へ引き寄せられる力と拮抗している。]
いやぁ、すみません。
頭に血が昇っていたみたいです。
私もまだまだ若いということでしょうか。
[最初に現れた時のような笑みが戻り、無事な左手で短くなった髪を梳く。
視界の端、巨大な茨が周囲を覆い始める。
消えゆく赤>>58と赤>>64に微笑んで、ゆるりと唇を動かした。]
後で、肩くらいは揉んであげましょうか。
[届くとも思わない。届かせようとも思わない。
約束にも満たない音は、野茨に覆われ、姿ごと見えなくなる。]