……ま。
タダで通してやるわけにも、そりゃいかんけどな。
[当然だ。政治家のやり方に多少問題があったとはいえ、ゲオルグとて黙って帝国をただ通してやる気などないのだ。
凶報は速やかに男を政治家どもから開放してくれた。
それが喜ばしいかどうかは兎も角として、漸く自分の居場所に戻れたということだけは確かだ。
潮風が男たちの顎を過ぎ行く。
その頭上には赤地に碇の意匠を施したウルケルの旗、また黒地に片側に少し寄せた十字をあしらったシンプルな提督旗が共に潮風に靡いている。
その目線を下に転じれば、艦橋の近くには堂々とゲオルグの使う斧が木棚に掛けられてある。
船上では、これが提督座乗の証でもあった。
この重い武器が実際に振るわれることは滅多にない。
故にゲオルグが常に携帯するのは、持ち運びには軽い銃に軍刀だ。
けれどこの戦斧は象徴であった。
歴戦の海軍提督、ゲオルグ・ヒューベンタールそのものの。
その為に男が艦に座乗する折には必ずこの戦斧が、乗員の目にも留まりやすいこの場に置かれる慣習となっている。]