− 船上 −
[航行はつつがなく、船上でクレメンスと会話する時間もとれる。
彼の先祖は海を渡ってこの島に人々を運んだ船の船長だったという話も聞いた。
伝説にいうナミュール建国に連なる古い血筋だ。]
では、貴殿も、海の向こうに郷愁を?
[彼が先日、投げた問いについて想起したことがある。
「もし、このまま、故国に帰れないとすれば」──あの質問を投げたときのクレメンスの表情と、すぐに向けられた背が心にひっかかっていた。>>1:683]
もしかして、貴殿は、過去に、
“宝珠”を壊そうとしたことがあるのですか?
[彼もまた、結界の外へ出ようとして果たせなかったのだろうかと、潮風に髪をなぶらせるその横顔を見つめる。]