オズ、ねぇ、如何したの?
[物心ついた時から残っていた名。
とても大事な名なのだと思って、大好きな犬にあげた。
呼ぶたびに懐かしくて切ない気持ちになるけれど
呼べることを何処かで嬉しく幸せにも思う。
話し掛ける娘に父親は可愛がり過ぎだと笑うけれど
どうしても、その癖は消えず今に至る。
ぐい、と力強く引かれるリードを両手で持ち、
少女は再び、大事なその名を呼ぶ。
それと同時に強い風が吹き抜けて
白い大きなつばの帽子を攫っていってしまった。]
あ……っ。
[呆然と青空を漂う帽子を見上げる。
人波から離れた場所に佇む誰かの足元にそれは舞い落ちた。]