―幾年の後―
[ふわりと潮風に翻るのは白のワンピース。
揃いの白の帽子が飛ばされぬよう大きなつばを繊手で押さえる。
長く伸ばされた艶やかな髪がさらと揺れて胸元に掛かる。
眩しげに二代目ヴィスマルクを見詰める眸は澄みわたる空と同じ色。]
すごいね、最新鋭の“護るための艦”なんだって。
ちょっと待って、オズ、引っ張っちゃダメだってば。
[オズと呼ばれた精悍な顔つきの犬はくると振り向き首を傾げる。
愛犬の散歩中、リードを引かれて立ち寄ったのはヴィスマルクの出港式。
すごいとは思えどさほど興味を懐かぬ少女は観るだけ見て満足するけど
愛犬はまだ足りないとばかりに艦に近づこうとまたリードを引いた。]
オズ、もう戻ろうよ。
あっちのお店に行くの。トルテが売り切れちゃうよ。
[甘党の少女にとって出港式よりも評判のトルテが大事らしい。
賢く普段は言う事をきく愛犬が今日ばかりは言う事をきかない。]