―バルコニー―[狐は眠る。傷の修復のみに集中する。本来鋭敏に捉えられる筈の足音すら気づかずに。ただ、何処か聞いたことがあるような青年の声に、垂れていた左耳が微かに動いた] ――――――…。[ゆらり、尾が一度だけ左右に揺れた。放り投げられたのは、薔薇の水の入った小瓶。蔓がきちんと受け取ってくれるならば、地に落ちて割れて無駄になることもないだろう。狐は何も言わない。顔をあげようともしない。両の瞳は閉じたまま。 眠る*]