― 旗艦ヴァンダーファルケ艦上 ―
[足元から、微かな振動が伝わってくる。
緩やかな波の起伏にも打ち消されぬそれは、鉄の塊の下で轟々と燃える炎の存在を思わせた。
慣れた振動だ。地上の静けさより、もうずっと、心にも身体にも染み付いた、揺りかごの如き馴染みの響きだ。
艦はアーレン島の北東を南に向け進んでいる。
やがて進路は緩やかに西に向かい、アーレン島の南を抜けて西へと向けられるだろう。]
やれやれ……。
[その艦上、男は息を吐いて行く手を見据えた。
今はごく平穏に映る海上の、未だ目には映らぬ遥かなる波の先には、つい先日宣戦布告を寄越したばかりのモルトガット帝国艦隊が布陣しているはずだ。]