―或る領主の回想>>2:164―
[今現在の男。クレステッド=ローティナーは先々代の隠し子。ウィルフレッド=ローティナーの息子と戸籍上はなっている。
実際には、数年の間のみ領主を任せた。主国から呼び寄せた術者の後。自らがまた領主の身に置いたに過ぎないのだが。
隠遁する筈だった。ウィルフレッドのすべてを。
それが正しいか正しくないなど考える余地もなく、そうすることしか出来なかった。
幼くあどけなかった小さき友に、幾度も幾度もウィルなのだろう? と問い詰められ、まだ背が追い着かないその体躯で執念を漂わせる視線に射られて――観念した。
いずれ。――この少年は青年となり、やがては妻を得て、子に恵まれれば忘れられるだろう。
生きゆく最中ですれ違っていった、やさしい人達のように。]
『……ありがとな。タクマ。もう知らん振りはやめる。悪かった。』
[まだ十代は半ばであろう少年に気圧されたというよりも、こんな風に誰かの生きる過程でほんの少しでも残滓を残せることが、嬉しいことだと一生伝えることはないけれど。
離れていっても構わない。時々思いだしてくれれば――それで、良かった。]