― クリーク砦 ―
[慌しくある砦の、ほんの一時。
男の姿は一人、見張り台の上にあった。
他に人影はなく、ここから見える限りに敵影もない。
そもそもが、男の立つ見張り台は南に向いているのだから、ズワンズ谷から寄せ来たらんとする軍の見えるはずもなかったが。]
─────…、
[男がこの場にあるのは、見張りの為ではあり得なかった。
視線は先に戦いを終えた平原へと向けられている。
遥かに遠く、見遣る向こうにはサクソー川が、更にはラモーラル州都があるはずだ。
男のまなざしは、遠く向こうを見遣るように平原へと注がれている。]
( … そうだな。)
[心の裡の声は、誰に届くこともない。
届けるべき相手は今はもう、この世にはない。]