[ぽつりぽつりと、暗闇の中に小さな焔が浮かぶ。
――狐火、という奴だ。数少ない特技の一つだが。
炎は不規則な動きで揺らめき数を増やしていくと、
一斉に弾けて強い光を放った。
あらゆる意味で、応戦は益がないと理解している。
ので、隙をついて逃げる道を模索してはみたけれど]
あらら。困りました。
[閃光に紛れて退こうと駆けた足を、容易に捉われて。
床に転がり、帽子がぱさりと落ちる。
苦く笑う。これ以上の抵抗よりは、
素直に身を差し出した方が堅実だろう。
口許に弧を描き、両腕を差し出す。
血が欲しいのでしたら、幾らでもどうぞ、と。
ただし、己が服の襟元は決して緩めず。
問われれば、請われれば、強いられれば、
服の上から自分の首元をかき抱くようにして、嘯く]