― 外務大臣襲撃事件 ―
[そのとき。トライブクラフト伯と穏やかに会話を交わしていたディークの兄、ユリシーズ・フォン・ベルンシュタインは、外から響く物々しい音に口を閉ざして、目を見開いた>>0:690
騒ぎ立てぬよう、厳しい表情で外の様子を窺う。
運動応力に秀で、軍人の道を志した弟とは違い、自分はあくまでも政治と交渉の世界に生きてきた人間だ。
だから騒がず、弟の後輩であったというステファンに判断を委ねた]
……扉が開いたら、反対側から降りて、走って下さい。
[彼の言葉に頷く。
自分が出て行っても足手纏いにしかならないことは分かっている。
彼の父、トライブクラフト伯とて変わらぬだろう。
けれど頷いて息子にコートを差し出す伯爵の顔に、
痛いほどの彼を案じる色が浮かんでいるのが見えた]