─ 川 ─
[黒髪の彼女の傍を離れ、近寄った彼は意識こそあるもののひどい有様で。
無茶な所は変わっていてくれた方が良かったと言った私の言葉に返された>>60苦笑を見て、胸の中に痛みが生まれる。
3年の記憶の中でも何度もみた顔だ。
けれど彼は、私の知らない12年の間にもっと沢山この表情を浮かべてきたのだろう。
12年。私が知る3年よりはるかに長く、私の知る彼が生きてきた年月よりもまた長いそれ。
義父さんと呼ぶ人がいて、何人も部下がいて、すべきことが出来ていて。
仮に記憶が戻ったとしても、積み上げてきた12年よりも優先されるべきはもう、彼には残ってなくて]
……そうですね。
差し出がましいことを、言いました。
[苦笑に返した表情はすぐに瞳に伏し隠し。
傷の手当を、と話を変えたのだったが]