パン屋 オットー

ーー翌日：パン屋『ハティ』ーー
[日頃の習慣とは怖いものだね。
いつも通り朝早く起きて、パンを焼き始める。
鼻孔を擽る小麦の焼ける芳ばしい匂いに、食欲が唆られない。
それでも、身体で覚えた感覚で石窯を開ければ、湯気を上げるパンは焼き頃を示していた。

１つ割って、味見をするけれどーー]


　　…………。


[全く美味しく感じなかった。
昨日食べたニコラスさんは、本当に美味しかったから。
今まで食べた何よりも、美味しかった。
“狼占の眼”だとか、何だとか。
そんな事実より、ただ彼の味を愉しんだ。
それ程までに、美味しかったのだ。]