― モーザック砦・地下 ―
[移動した先はどうやら、負傷者や避難してきた民が多く集まっているようだった。
そこかしこで上がるのは、痛みに苦しむ声と、突然の出来事への不安の声。
そして、それらを宥め、励ます声。
声が多く入り混じっていてはっきりとはわからないが、希望を唱える者の多くは皇子、という言葉を口にしていた。
それが示すものは──彼が人の心の拠り所になっている、という事実は明確で]
…………冗談みたいだな。
もしかして、ほんとに変わってないのか?
[ぽつり、と呟きが落ちる。
記憶の霞は、完全に晴れたわけではないけれど。
見えなくなっていた部分──幼い頃の思い出は断片的に浮かんでいるから。
ああ、厄介だ面倒だ、という思いが声音に滲んでいた]