[厭いはしても自ら傷つけることだけはなかった翅を毟り取ろうとしたのは、彼女と接触した直後のことだった。
何故そんなことをと訊かれることは幾度となくあったが、前後の記憶が曖昧だったこともあり、何が一線を越えさせたかは自分自身でもわかっていなかった。
――未制御状態のゾフィアの能力により、理性を失っていたのだと知るのは、それから随分と時が経ってからのこと]
[今では彼女も改造手術を受け、当時のような騒動を起こすことはなくなったらしい。
しかし少女は今でも、彼女に近づくたび、胸の奥をざわざわと探るような不快感と共に、翅の付け根の古傷に痛みを覚えるのだった]