― 平民街・小さな社 ―
[平民街の少し奥まった場所にある海の女神を祀った社。
時折人が訪れては、熱心に祈りを捧げて帰っていく。
平穏を憂い諍いを嫌う民たちの拠り所のようだった。]
……さて、私は信心深くはないけれど。
求められれば奏でるのが吟遊詩人というものさ。
[慰めを、と。困り顔の司祭に求められ、断る理由も特になし。爪弾くのは静かで穏やかな旋律。のせる詩はなくリュートだけが響く。
遠い記憶の中にある祭祀、海の女神を讃える祭り。この国の民であればどこかで耳にしたことのある旋律が、平民街の片隅に流れて消えた。**]