結局、あいつには、何も教えられなかったということか。
[ 事件の犯人が誰であるかは、当人が逃走したことからも明白で、それを知った男は教師としての無力を嘆くことになった。 ]
魔法は技能だ。使えれば便利だが、使えなくても、人は生きていける。
ましてや、その力の多寡で、人の価値を決めるものじゃない。
[ 言葉だけで世界は変わりはしないかもしれない。けれど、届けた言葉が若者の心に根付けば、彼らの行動がいつか世界を変えるかもしれないと、信じて教師は言葉を重ねてきた。
最初から、それを当然の事実として受け入れ育ってきたリヒャルトの当たり前が、本当の当たり前になるように。
だが、真に届けたい場所に、結局、その言葉は届かぬまま。巻き起こった嵐に、世界ごと願いは飲み込まれていったのだ。** ]