[発砲音と鼻につく火薬の臭いは嫌いではない。
それは悪夢に見る血肉を紛らわせてくれる。
狼化病という病は古来から存在していたが、それが感染症であることは近年の発見で、コントロールできる薬が出来たのは現代になってからだ。
特に軍のような閉鎖性が高い環境では、狼化病の制御は必須であり、薬はただで支給されるし、それでも発症した際は――発症者のいる一帯ごと隔離されると聞く。
狼化病の発症は連鎖することもあり、詳しい顛末は書庫にでも眠っているかもしれないが、カスパルは読むつもりはなかった。知ったってあの悪夢は去らないし、最悪を避ける方法は幸い知っている。
――だから実家には帰らない。
会わなければ,殺せはしない。*]