――第2エリア・花屋Florence前――
[カサンドラのことがふと頭を過ぎったから、
自身はまた難しい顔をしていたような気がする。
普段は感情が表に出ることはあまりない。
へらりとした表情だけが常に表に出る。
…それはある種の防御反応のようなものかもしれないけれど、それは女に自覚はない。
しかし今日はなぜか、いろいろと感傷的になることが多いように思えた。
思えば、何か予感のようなものが、あったのかもしれない。
花屋の前に立ち止まってどのくらい経っていたのだろう。
乗客の喧騒が耳に届くようになって、ゆっくりと意識が上がる。
ふと、気づけば、女の隣には乗客らしき人がいた。
首だけをそちらに向かせて見ると、その人、その女性は、目を奪われたように花々に見惚れているようだった。
髪も服も綺麗にしているが、どこか着慣れていないというか、心地が悪く落ち着かないような、なぜかそんな印象を受ける人だった。
口を開けてぽかんと、しているような様子に、何かそれ程驚くような、琴線に触れる花でもあったかな、と思う。
それかもしくは、見慣れていないのかもしれない。女にはここの花が珍しいかどうかはわからなかったし、花が咲かない地域のことも人づてに聞いただけであるが。
そんな、女から見れば花を見ただけである種大仰な反応をする女性に、
へらり、表情を戻して話しかけていた。]