わたしは東の漁村に生まれ、両親の手伝いをして暮らしていました。
[久しぶりに聞かれた問いだ。わたしは頭の中にある固くなった引き出しを開けて、用意していた答えを取り出す。自分が体験した記憶を呼び起こすようにして]
しかし、漁師である父を時化で亡くし、母を助けるため、自立するために軍に志願しました。……その母も既に亡くなりましたが。
[取るに足りぬ理由で出自が省略されたと捉えられかねない、ごくありふれた生い立ちを並べ立てる。念入りに調べたところで、同じ結果が得られるはずだった。
十年前にこの国に侵入した時は既に、そうなるように膳立ててあったのだから。
そこで聴取の終わりが告げられると、わたしは席を立って、監査局を後にした。*]