[ふと視線を下げると、経てきた時間の長さを物語るような古い砂時計が視界に入る。いつしかお客が小物でも置いたらどうかと提案してきたために倉庫から引っ張りだしてきたものであるが、これが手に持ってみるとなかなかに心地が良い。流れる時間がゆっくりと、手の先から背骨を伝って脳髄まで伝わるような、不思議な感覚に陥るのだ。それが、思いのほか母親にでも抱かれているような心地を覚える]
果たして、これはいつからあるものなのか……。
[そんなことを考えながら、或いは口に出しながら砂時計をひっくり返してみると、まるで図ったかのように扉を叩く音が聴覚に飛び込んできた>>32]
……ん。いらっしゃい。僕に用なら入って来てくれて構わないよ。
[今は閉店しているわけではないから用が無くても入って来てくれて構わないのだけれども。と、そのことについては敢えて口に出さずに応えるのだった]