そういえば――
[パンの、鼻腔を直接擽るような香に混ざり、冬の香をにわかに感じたことがきっかけか、或いは冬という言葉からそこはかとなく脳裏に焼き付く白色に当てられてか、巡礼の旅へ出ている友人の歩く姿が、アルバムのページをめくるかのように頭に浮かびあがるのだった]
――そうか、そろそろそんな時期にもなるのか。
[…は冬という季節がニコラスの帰還を意味する季節であることを思い起こすと、導かれるように店の扉へと視線を送る。彼は果たしてここを訪れるだろうか]
と言っても、初めに訪れるのは教会なのだろうけど。
[扉に向けて呟く言葉はどこか虚しさを帯びて凍りつき、消えて逝く。気まぐれに、溜め息をついて見せると首を二、三横に振る]
どのみち、僕ほど歓迎という言葉が似合わない男もいないだろう。
[彼が店にやって来るとしたら、何を望むだろうか。或いは、何も望まないということもあるかもしれない。そもそも訪れてこないということだって。いずれにせよ、ニコラスが店に訪れるのであればまるで1日ぶりに会ったかのように対応するだろう]