[狂ったように嘆き怒る大鴉>>55を、
狐の緋色は涼やかに見つめている。
呻くように絞り出された声>>58は、悍ましくも哀切を帯びて。
闇を切り裂く勢いで黒の弾丸がごとき鴉が迫る。
まるでこうなると予見していたように、
狐はその場を一歩たりとも動かなかった。
――嗚呼、もはや果て掛けた身など幾らでも喰らえ。
それでもこの意識途絶える前に、一つだけ。
愛と憎しみを込めて、彼へ捧げよう]
『可哀想に』
[想いは心へ囁きかけるように。
同時に軽い体は呆気なく弾き飛ばされ、地に付した。
頭と顔面に熱く鋭い痛みが襲うが、最早流れる血液もなく。
右耳が食われた。爪の傷で右眼も開かない。
過ぎていく黒い影>>58を、片耳片目の狐は虚ろに見送った*]