― 玄関口 ―
[なんとしてもその忘れ物を見つけてあげないといけないような気がして、その気持ちに押されるように屋敷を訪れている。
正門の前に立てば、屋敷の静謐な佇まいもささやかな木立もあのころからほとんど変わっていないように思われる。
外塀にふくふくと育っている柔らかな苔に触れると、冷たい滴がわずかに指先を濡らして、それもまた懐かしいような気がした。
そうして濡れた指先で風に乱れた髪を直し、コートの襟を整えてから、そっと門をくぐった]
ごめんください。どなたか、おうちの方は―
[そう声を掛けたものの、既に先客がいることに>>56>>57気づいた後は、彼らの会話を邪魔しないよう、そっと少し離れた場所で待つだろう。
無意識にショルダーバッグの肩紐をギュッと両手で握って、それでも最大限礼儀正しくしようと気をつけながら]**