[ 1台の車が田舎の山道を走っていた。
アーミーグリーンと白のツートンカラー。全体に角ばった無骨なデザイン。もはや時代遅れ感のある丸目2灯。
一見、昔の作業車のようだ。
が、ヴィンテージ・カーに興味のある者にはわかるかもしれない。30年以上も前に生産終了となったトヨタ・ランドクルーザー56系だということに。
また、歪みや汚れのない外観、快調なエンジン音から、それが日常的にきっちりメンテナンスされていることにも気付くだろう。
ハンドルを握るのは金髪の青年である。
こちらも、ごく常識的な身なりだ。ぱっと見でそれとわかるような着飾り方ではない。
しかし、観察力のある者やブランド物に興味のある者には見抜けるだろう。余計な皺を生じない茶色の上着はあつらえたもの。その袖口から除く腕時計はヴァシュロン・コンスタンタン。
車と腕時計だけでも、一般人の数年単位の生活費をかけている――彼はそういう暮らしぶりの者なのだ、と…。]