― 城主の部屋 ―[いくらかの時間が過ぎた後、扉から姿を現したのは、戦装束に身を包んだ城主だった。細身で体に沿う白い厚手の服の上に、腰までを覆う鎖鎧。音をたてぬ鎖は、髪と同じ色に染まった生ける茨で編まれていた。鎧の上から羽織った黒いサーコートの背には、野茨公の紋章が大きく刺繍されている。その左胸のあたりには、一輪の花が透けて見える鮮やかに紅い血玉のブローチが留められていた。左の腰に剛細剣《エストック》。右の腰には慈悲の短剣《ミセリコルデ》。鞘に収まっている刀身は、どちらも鎖鎧と同じ赤い茨で作られている。]