[ディーターを見つめ返すクララの目には何の感情も浮かんでいない。肌を刺す雨の様に冷たい表情。>>53
「カイ・エーベルト」という名前にぴくりと肩を震わせた。
その悪党と似ていると言われれば、ランプの灯りをディーターへと向けて顔を確認しようとして。
闇に浮かび上がる、赤髪の色。
人影の輪郭がぼんやりと浮かび上がるだけで、
ディーターの顔の作りまでは分からない。]
分かんないわ、その男と貴方が似てるかどうかなんて。カイ・エーベルト、ね。
そういえば。……昔、わたしの家に入った泥棒がそんな名前だったかもしれないわ。
[本人から否定されれば納得したのか、前に被害にあった泥棒と間違えられるという告白を聞いた後なのにあっさりと引き下がる。]
貴方の顔、……というよりも貴方の声を何処かで聞いた事があった気がしたの。
でも、気のせいだったみたい。
[雨風の音に掻き消される程の小さな声で呟く。
踵を返してディーターと海へ背中を向けた。]