[実際のところは冬にも関わらず温暖であることもあってか、観光客がそれなりに村を訪れたりもして、決して村に来るものが皆無というわけではない。
にもかかわらず、この宿が冬にいまいちなのはなぜか。]
(……まあ、なんていうか、入りづらいんだろうねえ)
[曰く、
「村に不釣り合いな立派さ」
「雰囲気がありすぎてなんか怖い」
そんな理由である。
懐の面やムードを気にして足が遠のくのだ。]
(相場の宿代でやってるんだからそこは勘違い。けど、不釣り合い、はねえ……)
[こればかりはその建物の主であるレジーナも反論できない。
決して大きくはないものの村で一番の丈夫さを誇るこの建物は、宿というより戦の宿営地が似つかわしいほどだ。
古い建物で、レジーナの先代が宿としての経営に使うようになったが、元々は何に使われていたのか、もう定かでない。]
(実際、砦だか、何かあったときの避難所にでも使われてたのか………ま、今はそんなことに使うことはないだろうけどねえ)
[誰が見ているでもないが、あくびをした口元を扇子で隠す。]