……?
[思いがけずかけられた声>>46に、目を開ける。詳しく話してくれと望まれたため、当然のように口を開いた]
昔、ある人に聞いた話だよ。大した話じゃない。
或いは、単に“慣れる”という言葉の定義の違いかもしれない。
[シモンの瞳を覗きこみつつ、そう前置きする。そういえば、“彼女”に教わった話を他人にしたのは初めてかもしれないと、特に感慨があるわけでもなく考えた。]
例えば、日常生活――この状況で日常などという言葉を使うのはどうにも皮肉めいているかもしれないのだけれども――の中で慣れるということは、価値を見失うということ。
この例えはいささか語弊を生むかもしれないけれども、敢えて気にせずに言うのであれば、人は当たり前のように食事をとるし、眠りもする。もちろん、楽しんで食事を取る人なんかもいるのだろうけれども、真に慣れたと呼べる行為に対しては楽しむ感情すら生まれない。
人の命を奪うことに慣れるということは、命というものの尊さを貶める行為に他ならない。命を奪うことに慣れてしまえば、その行為に何も思うことはなくなり、何時しか他人と自分の命の区別すらつかなくなる。