――悪夢の話――
[幼い頃から得体の知れぬ悪夢を見る事があった。
泣いて飛び起き、両親の寝室を訪れ、優しく抱きしめられながら穏やかな眠りにつき朝になれば忘れていた。あの頃はまだ、穏やかな夜だった。
悪夢が具体的になったのは弟妹が生まれた後。
幼い妹が怪我をして血まみれになったのを助けようと駆け寄った時。
彼女の髪は茶であったはずなのに、目の前には金糸が広がった。
その夜から、悪夢に一人の人物が登場し、記憶に残るようになる。
波打つ金の色。こちらを見つめる大きな瞳。
赤に塗れた彼女の唇は小さく動きカスパルを断罪する。
その言葉は最初は聞き取れなかったが、成長するにつれて一音ずつ耳に染み込んできて、彼女の言葉をはっきりと聞けるようになった次の満月の夜。]