―→広間―
[温泉から出れば、義手は填めていた。
この義手は、魔力を込めれば、普通の腕と同じ様に自由自在に動かす事は可能だし、見た目も全く普通のものと同じ様に見えるだろう。
ただ、所詮は義手。触れたら温もりなど無く、肉の柔らかさとは程遠い固さを感じると思われる。
そんな偽りの腕を取り付け、服を纏い、荷物を部屋へ起き、愛用の煙管を懐のポケットに忍ばせ、広間の扉を押し広げたら、既に数名の人が談笑していて。]
蜘蛛ん巣に掛かったんは、うち以外かておったんか……。
[お見合いを蜘蛛の巣と揶揄し、ポツリと呟き、腕を組み手を口許に当てれば、談笑している輪の中に見覚えのある人が居て。
あれから年月が幾分か経っていたので、思い出すのに少しだけ時間が経ったが。
首を傾げながら、薄茶色の瞳は、かつての主治医の姿を捕らえている。]