― 昔の話 ―
船旅の途中で兄を亡くしたと言うと
同情や憐憫の視線が返されることが多い。
……事故。
アレは航行する時に起きた不運な事故だった
と、当時の調査書にも兄の死亡要因にも書かれている。
仕事に疲れた兄が弟を殺そうとしたとか。
金銭的に困っていたから弟に掛けた保険金が欲しかったとか。
当時は安っぽい動機が幾らかニュースの中で述べられたが
事実としては一つ。
「 兄が年の離れた弟を殺そうとしたが死んだのは兄の方だった。 」
それだけだ。
正当防衛だったかどうかも、
誰が兄を殺したのかさえも公表はされていない。
…あれは、すでに数年前の出来事で、
今と同じようにこの船に乗っていた――――。