[ヴァルターには弟がいた。
いわゆる「兄よりも優れた弟」で、父母は弟を率先して可愛がり――少なくとも、ヴァルターはそう考えている――自由な生き方を許した。街へ出ていき、村を「捨てた」とさえ言える弟ばかりを贔屓にしていた父母を、ヴァルターは理解できない。
村を出て、勝手に女を作り、子を作り、挙句死んで、娘を押し付けられたとあれば。更に、父母が、愛していた息子の形見だと孫を可愛がれば。好ましいと思える要素はどこにもなく。]
……さっさと男でも作って出て行けばいいものを。
性格が悪くて行けんのか?
[一応、世間体があるから追い出しもせず、死なない程度には食費なども渡している。もっと働いて貢献するべきだ、と説教をしたこともある。]