[男は主の金眼を見つめ、それから、とん、と大地を蹴った。
浮き上がった身体を、一瞬宙に留め、それから再度つま先で着地する。
それを確認すると、男の瞳に喜色が溢れた。]
ありがとう、ございます。
[抑えた声に、滲む興奮は、隠しようもない。
かつて、前線へと赴く背を、何度口惜しく見送ったことだろう。
口にこそしなかったものの、下肢の不自由を得ても、並の相手には引けを取らぬ自信があった。
それでも、ルールのある競い合いではない、命のやり取りを行う戦場に置いて、その小さな一瞬が命取りになることは、重々承知していた。
だからこそ、言えなかった。]