[クリーク砦の一角で円座す面々は、
マーチェス平原に居住する遊牧民――外部的にはヴィダン族と名乗る――らのうち、主だった者。
エドルファスの属する遊牧民族はそもごく少数の血縁一族で旅を続けていた個々の流浪民族が自然と寄り集まったものであり、規模が大きくなる度に文化や習慣の差異が埋められ均されてきた経緯はあるが、一族一党を率いる指導者や長なる者は存在しない。
ゆえに、主だった者の集会と言えばいわゆる「家長」の集まりと思っても差し支えはなく、ヴィダン族としての決定は殆どの場合彼らの対話と議決によって行われてきた。
共通の姓はなく、父親の名で血脈を見分け、
うち、何番目の子供かで個々の認識が定まる。
エドルファスの場合、父親の名はレイナルド、その長子。
それだけの情報で互いを認識できる程度には民の結託は強い。]