− 過去:先生 −
嫌よ、ぜんぶいや。
生きているのがいやなの。
[親友も死に独りぼっちになって……しかも自分の頭には"生物兵器"が潜んでいて。
自分が死んだら、もしかしたらまたその脳を使って実験が始まるのかもしれないとわかっていたけれど、どうしようもない行き場のない気持ちを、こうして首筋にナイフを突きつけ叫ぶことしかできなかったとき。
自分の獲物を抜かれた部下にあたる年上の男も、必死に説得を試みるのだが、少女の胸には響かない。
激高しているのに、どこか冷え冷えとした感覚。
もしかしたらその冷静な部分が、ガルーと呼ばれる生物の居場所なのかもしれないけれど。
その手は迷いなく、振り上げられる。
ナイフが、少女の喉元に刺さろうとした……そのとき。
『はいはい、そこまで。』
この場に似つかわしくない声が、その場に響く。]
……だ、だれ?
[スーツに白衣を羽織った男性。
後に自分が、先生と呼び、船に乗れば話を聞きに行くようになる男性。
あまりに場に馴染まぬ穏やかな声色に、思わず両手でナイフを握ったまま、その顔をまじまじと見た。
部下である男が、先生、と呼んだので、また実験でも始まるのかと眉を潜めたが。
その男性は静止の言葉を発しただけで、特に動こうとはしない。]