[例え天の加護が在る勇者と云えども、彼は人の子。
魔性の獣として生を受けた我が身が後れをとる道理はない。
しかし、玉座まで進行を赦したのは紛れもない事実。
数段高い位置にある玉座の傍に控える身は、自然と勇者を見下ろし。あの時冥府へ送っておけば。と、唇だけが動いて惜しむ。>>38
勇者に明確に劣るものがある訳ではない。
だが、いつも今一歩のところで仕留め損なう。
彼らの仲間が庇うこともある、彼自身が機転を利かせることもある。
そうして先送りにし続けた決着は、王の御前まで辿り着いた。]
―――…忌々しいな、勇者よ。
[彼を生かしておいて、王の統治、己の悲願は叶うまい。
そう確信させるほどの光が彼にはあり、背に隠した爪が緩慢に開く。
障害の切除に急かされるように、瞳は煌々と燃えていた。*]