旅人 ニコラス

[だからゲルトは、僕が生まれて、他人へ本当の意味で友好的な態度を取れるようになった自分が、初めて得た友人だった。過去形で言わねばならない事実がとても悲しい。

ゲルトがいてくれたから、自分は誰かにお土産を渡すという習慣を覚えた。
四年前に友人へ初めて差し出したそれは、夕焼けみたいなオレンジ色の押し花だった。これが野原いっぱいに咲き誇って、風に揺れている様を教えたくて。病弱で中々外に出られない彼に、知らない景色を想像して欲しくて。

『光景が浮かぶ説明をしてくれたから凄い』>>0:957というゲルトの思いを知ったなら、絶対に首を横に振っただろう。]

違うよ。いつだって君は僕の話に耳を傾けてくれた。説明が上手いと言うなら、きっとその言葉が嬉しくて、次はどう話そうか頑張れたんだ。

[この村の温泉を知って、定期的に訪れるようになって以降、初めて自分に”おかえり”>>0:728って言ってくれたのも、”ただいま”>>0:711と返事することを覚えたのも、彼の存在故に。]