[体が揺らいだと見えたのは、ごく短い間のことだったろう。
支えようとするものがあれば、手を伸ばして押しとどめた。
その所作のひとつひとつ、伸ばした指の先までもが嫋やかに甘い。]
心配いらない。
身体をほんの少し、借りているだけだから。
[切れ長の目元はそのままに、伏した睫毛の影が表情に色を添える。
それまでの、秀麗の中に凛とした威を宿す武人の相とは一変して、華やかにして奔放な、背徳の華の気配を纏っていた。
他のなによりも目に明らかなのは、背の翼が鮮やかな赤に変わったこと。
咲き誇る薔薇を思わせる色彩が、背を彩る。]